コタツ釣り

　

夢かうつつ（現）かわからん時はひざやホッペをつねって確かめる。痛ければうつつ、痛くなければ夢。歳末大売出しの一等賞が当たるなど、棚からボタ餅の時の心構えだ。地下鉄を降り階段をのぼって地上に出るとおねぇちゃんがポケットティシュを一つくれた。おっ！トク（得）した。でも、見るとサラリーマン金融案内の文字。「いつでもどうぞ」だって。やだなぁ、おいらのこと金詰まりだと思ったな。ここらで一発長島巨人の逆転優勝・谷川９段の竜王奪回にあやかって、なんぞエエもん当たらんかいな。今年も「夢」と遊んでなんとなく暮れそうだ。夢は夢、夢は現実とは違う。この歳になってまだこのことがわからない。

　

釣りは、糸のこちら側に自分が居て、あちら側に夢（大魚）が居る関係だから、道糸を介して“思い”は、夢と現実の間を行ったり来たり。今年も大変忙しかった。身体は糸のこちら側でじっと座ってアタリを待っていただけだのに、思いの方は勝手に身体から抜け出て、たびたび糸を通って針や餌の様子を見に出かけた。“まだエサ付いとるやろか、とか、もうかすめ取られたんとちゃうか？”などを確かめに。餌を付け替えた後も、やはり何も釣れないと“思い”はまたぞろ身体から抜け出し、針や餌も通り抜け、そこら辺りの海底をキョロキョロ魚探しする。

“あれれ、だぁれもおらんやんか。魚はどこへ行ってもたんやろ”

身体はボンヤリ座っていても「思い」は多忙極まりない。ウロウロした後、くたびれ果てて身体に戻り、やっこらせとひとやすみ。ひといきついた後、船縁に並べた置き竿を順にあおり、糸先の「夢」の様子を確かめる。スコンスコンと腕に軽いのはスカ夢。ズシリと思いのが正夢。リールを巻くと大きな座布団カレイが釣れていたてな具合。夢は重さで計るのだなんて知らなかったなぁ〜。“身体”が自分か、“思い”が自分か。いったいこの内どっちの自分が魚を釣ったんや？　ハーイ、おっさんの思いが魚を釣って、おっさんの身体がリール巻きました。

　11月30日、真冬なみの寒波襲来。兵庫県南部地方に強風波浪注意報発令。釣り行きをあきらめ只今コタツに足を突っ込んでパソコン作業中。“釣り心が”というか“指先が”というか、が、やけっぱちになってキーをたたく。プッツリ切れた凧の糸、いや釣り糸、窓から見上げる青空に次々と雲団が走る。速度約25ノット。いっちょあの雲を釣ってやろうか。

　　◇　◇　◇

　職場の釣りクラブがイイダコ釣りを計画し12月８日出船の予定。当初はハマチ釣りのつもりだったが回遊魚のこと、近況を問い合わすと「もうハマチはおらんでェ〜、イイダコに行くでェ〜」と電話口で乗合船の船長が言って、一同クニャア〜と腰が砕けた。イイダコ釣りはゴミが引っかかったみたいやとか、竿に雑巾ぶら下げるようなもんやとか、誰もあまり良いようには言わない。クニャクニャの飯蛸夢、ただしバケツ一杯ほどはお墨付きだとか。